財務事業本部 グループファイナンス部 資金調達部門 調達担当 ※所属は取材当時のものです
人文・文化学群 人文学類 卒
- 2020年4月
- 入社。財務事業本部 資金部門 資金企画担当へ配属。日次資金繰り、月次CF分析、長期資金繰りシミュレーションなどの資金繰り業務全般に従事。
- 2023年7月
- 現担当に異動。現在は外債発行や金融機関からの外貨借入などによる外貨資金調達業務、及びグループ会社への外貨貸付業務に従事。
23億5000万ドルの巨額調達。
ドル、しかも巨額での資金需要が、NTTグループで高まっている。たとえば、2023年の新中期経営戦略で語られた「データセンターへの投資」。データセンターとは、サーバーなどのネットワーク関連機器を収容するための施設を指す。その運用事業においてNTTグループは世界シェア3位(※)というポジションにあり、さらに5年間で約1.5兆円以上という投資が決まった。データセンターは米国をはじめとする海外にあるため、資金はドルで調達するほうが好都合だ。
そのための有力な手段が「外債発行」。海外市場で債券を発行し、現地の投資家から資金を集めるという手法だ。NTTファイナンスは2022年、米国での外債発行によって15億ドルもの資金調達を行なった。その時と同じフォーマットで、再び調達を成功させること——それが木村のミッション。ただし、発行予定額は大きく膨らんだ。前回の約150%に及ぶ、総額23億5000万ドルだ。2024年7月のレートで、実に約3,760億円。
木村は、欧州市場での外債発行なら携わったことがある。その経験は心強いが、誰よりも知見が深いであろう2022年の担当者はすでに異動済み。直接的に頼ることができない。一方で、2年ぶりの米国市場ともなると、社内の期待も大きい。「かなり大型の案件だね」「頑張らないとやばいよな」——そんなふうに声をかけてくる同期までいる。
※:Structure Research 2022 Reportより中国事業者を除き再集計

国境を超えた綱引き。
海外での債券発行は、国内とはいろいろと勝手が違う。米国での外債発行特有である「トラスティー」との契約書作成対応もその一つだ。「トラスティー」を要約すると、社債権者——つまり投資家——の権利を保護するための存在。多くは現地の金融機関がその役割をつとめる。当然、投資家に有利な契約を結ぼうと働きかけてくるが、そのバランスが極端だとNTTファイナンスの不利益を招く。
トラスティーから契約書の素案が届くと、木村は上司や弁護士を交えてその内容を精査した。重点的にチェックするのは、2022年の契約書との違いだ。どんな条項が追加されているのか。または削除されているのか。それがNTTファイナンスにとってどう不利に働くか——読み解いたあとは、「NTTファイナンスとして許容すべきかどうか」の協議だ。NTTファイナンスにとってのリスクは取り除くべきだが、こちらの言い分ばかり突き付けて、契約に至らなければ元も子もない。ある条項を妥協するかわりに、別の条項を盛り込みたいという交渉が入ることもある。両者が納得するバランスを探って、駆け引きは続く。
さらに、表現の明快さにも細心の注意を払った。今回のトラスティーである米国の金融機関は、そのシビアさで知られている。たった一つのセンテンスが曖昧だったばかりに、解釈の違いから損害や訴訟につながることも考えられた。

完璧なタイムマネジメントを。
さらに木村を悩ませたのは、「ドキュメンテーション」の多さだ。債券発行に必要な開示書類などのことだが、種類も数も想像以上。中には木村が聞いたことさえないものもある。しかも、専門用語がぎっしり詰まった英文だ。その対応を、限られた期間内に完遂しなければならない。
木村はまず、弁護士や証券会社へのヒアリングを通じてドキュメンテーションの概要を把握。対応すべきことを明確にし、その分量と必要な作業時間を丁寧に洗い出した。それをプロジェクトメンバーとともに、的確で無理のないスケジュールに落とし込む。完璧といえるタイムマネジメント。その結果、木村は自分が担当するドキュメンテーションをきっちり準備したばかりか、ほかのメンバーをサポートする余裕まで生まれた。

ここだけの経験が鍛えた、普遍的な力。
2024年7月。米国における外債発行は、滞りなく実行された。発行額は総額23億5000万ドル。対する投資家からのオーダーは、約2.5倍にも及ぶ58億ドル超。「NTTファイナンスが金融市場で存在感を増していることの証左だ」——そう評するメディアもあった。
このプロジェクトを通じて、木村も貴重な経験を手に入れることができた。NTTグループの資金調達は、当然ながらスケールが大きい。しかも手段が多彩だ。今回のように外債発行に関われる企業は、実は世の中に多くない。トラスティーとの駆け引きも、ドキュメンテーションとの格闘も、NTTファイナンスだからこそ経験できたのだともいえる。その中で木村は、調整力や伝達力、そして何より、最後までやり遂げる対応力という普遍的な力まで磨くことができた。
木村はいずれ、部署も国内外も社内外も問わず、NTTグループ全体の財務・会計分野を経験してみたいと考えている。その先でめざすのは、データドリブンにも長けた財務のプロフェッショナル。外債発行で鍛えた力がきっと、その時に役立つはずだ。