2023/5/23
2023/5/23
近年、経理人材が不足していると言われています。しかし、経理は会社にとってなくてはならない仕事です。もし、自社の経理部門に不足が生じた場合、すぐに新たな人材を採用する必要があるでしょう。しかし、次のような理由から、採用に時間がかかってしまう可能性があります。
理由1:専門的な知識と経験が求められる
経理は事業の動きを認識、正しく記録しステークホルダーに伝えるための重要な業務です。事業には、サービス開発、営業、仕入れ、資金調達、納税など様々な活動があり、そこにはお金や情報の流れが伴います。経理担当者には、特にお金の流れを認識し、一定のルールに基づき記録するための専門的な知識やスキルが必要となります。簿記の知識はもちろん、税金や給与などに関する法的な知識も必要です。加えて、多くの企業が会計ソフトなどを導入して経理業務を行っているため、基本的なITスキルも欠かせません。特に中途で採用する場合は実務経験も求められるでしょう。
理由2:経理業務の複雑化
会計基準や税法などは適宜改正されるため、経理担当者は常に最新のルールに則り、業務を正確に行う必要があります。それだけでなく、業界特有の商習慣などがある場合は、そのルールも踏まえて業務を進めなければなりません。加えて、経理関連のITシステムの発展なども相まって経理業務の複雑化が進んでいます。そのため、求める人材へのハードルが上がっているケースも少なくありません。
理由3:経理人材は引く手あまた?
前述したように、経理部門は事業活動を正しく認識しステークホルダーに伝えるための重要な組織で、どの企業でも重要な役割を担っています。そのため多くの企業は、「優秀な経験者」を採用したいと考えています。経理に関する高い専門性やスキル、実務経験の豊富な人材は引く手あまたと言えます。
企業で経理人材が不足すると、一人あたりの業務負担が増加し、労働環境が悪化することが懸念されます。こうした環境はミスが起こりやすくなるだけでなく、内部牽制が効かず不正のリスクにもなりかねません。
また、人手が足りないため、必要最低限の業務しかできなくなり、本来行うべき業務が疎かになる可能性も考えられます。こうした事態に陥らないためにも、経理人材の確保や人事ローテーション、育成計画を考えておくべきでしょう。
経理人材の確保が難しいからといって、安易に考えて自社にそぐわない人材を採用してしまえば、双方にとって不幸な結果になります。経理人材を採用する場合には、知識やスキル面で次のような観点を満たすかどうかが、評価の一つとなります。
簿記の知識
経理担当者にまず求められるのが「簿記の知識」です。企業がビジネスを行う以上、お金の出入りは必ず発生します。勘定科目や金額、取引先について、ルールに基づき帳簿を正確に作成し、決算書まで作成できるスキルを持ち合わせていることが望ましいです。加えて、簿記以外にも下記の分野に関する知識もあるとなおよいでしょう。
法律知識
経理担当者には、税法や会社法、金融商品取引法などの「法律知識」も求められます。日々行なう業務は法律や会計基準に基づき実施されるため、正確な知識がないと、企業が損害を被るトラブルに発展してしまうケースが考えられるからです。特に下記に挙げている分野の法律知識があることが望ましく、加えて法制度の改正によってルールが変わることが多いので、常に最新の情報を確認、セミナー等を活用することで自らの知識をアップデートしていくことも重要です。
ITスキルおよび情報処理能力
経理担当者には、表計算ソフトや会計システムなどのITスキルも必要不可欠です。実務ではシステムが使えることが前提となり、システムを用いて抽出したデータを整理・分析し、関係者へ情報提供することも業務の一つです。会計システム以外にも関連システムや扱う情報も増加している傾向があり、必須のスキルと言えます。また、それらの情報を会計のルールに基づいて、適切な会計処理に落とし込む「情報処理能力」が求められます。
基本的な知識やスキルだけでなく、専門性を有しているかを判断するためには、取得している資格にも着目する必要があります。ここでは、経理担当者が持っていると望ましい資格について紹介します。
簿記検定
企業の経営活動を記録・計算・整理して、企業の経営成績と財政状態を明らかにする技能の習得度を測る検定です。1級取得者は税理士試験の受験資格が得られます。
税務会計能力検定(「所得税法能力検定」「法人税法能力検定」「消費税法検定」「相続税法検定」)
所得税、消費税、法人税、相続税の仕組みや会計能力を問われる検定試験です。主に税理士試験受験前の基礎学力確認に活用されます。
USCPA(米国公認会計士)
米国各州が認定する公認会計士資格で、経理財務の実務スキルを測る検定です。経理財務部門が行う業務全般の実務的な知識が問われます。
経営学検定(マネジメント検定)
経営に関する基礎的・専門的知識や、応用能力としての問題解決能力を問う検定試験です。
AFP資格(アフェリエイテッドファイナンシャルプランナー)
ファイナンシャルプランナーとしての十分な基礎知識を持ち、適切なアドバイスや提案ができると認定された人に与えられる資格です。
建設業経理士検定
建設業界に求められる建設業経理(財務や経理)に関する知識と処理能力の向上を図るための資格です。業界ごとに実施している経理関連資格の一つです。
内部監査士
内部監査の理論と実務の講習を修了した人に与えられる称号です。日本内部監査協会が主催する内部監査士認定講習会への参加と論文により合否判定が行われます。
給与計算実務検定
企業・組織に不可欠な給与計算に関する知識・実務能力を客観的に判定し、給与計算業務のエキスパートとして認定する検定試験です。
ビジネス・キャリア検定
職務を遂行する上で必要となる知識の習得と、実務能力の評価を行うことを目的とした、ビジネス全般の基礎知識に関する検定試験です。
ITパスポート
情報処理技術に関する資格の一つで、ITの基礎的な知識が証明できる国家試験です。AIなどの新しい技術や経営全般、マネジメント知識など幅広い分野の総合的知識を問われます。
基本情報技術者
ITエンジニアの登竜門と称される国家試験です。ITエンジニアとしての基本的な情報処理技術に関する知識や技能に加えて、企業経営やマネジメント分野の知識を問われます。
これらの資格は必須なものではありませんが、取得していればある程度の知識とスキルを有している指標になるかと思います。加えて、より実務的な2つの資格についても紹介します。
「経理財務スキル検定(FASS)」
経理財務部門の定型的実務に従事している人、これから従事しようとしている人を対象とした、経理・財務の実務知識やスキルの習得度を測る検定試験です。A~Eの5段階で評価されるため、自分の実務スキルを客観的に把握でき、目標を明確にすることが可能です。
「FP&A(経営企画スキル検定)」
経営企画・管理、事業管理、財務管理業務などに従事している人、今後これらの業務をめざしたい人を対象とした、日本CFO協会が主催している経営企画・経営管理の能力を証明する検定です。試験の結果はスコアとレベルで評価され、800点満点のスコアに応じてA~Eの5段階のレベルが与えられます。
経理は企業を支える屋台骨です。そのような経理の人材不足は、経営やビジネスにおいて大きな影響を及ぼします。人材不足を解決するためにも、人材育成プランやジョブローテーション計画に基づき適切な人材を配置し、働きやすい環境を整えるべきでしょう。環境が整備されると、経理担当者の職場への定着を促し、日々の業務を円滑に進めることにもつながるはずです。