Vol.022Paris 2024 Paralympics/決勝、メダル、そして……

8月31日17時59分 男子背泳ぎ100m(S8)決勝
予選を1位で通過した僕は、最後にコールされる。応援に来てくれている仲間に手を振り、センターの第5レーンに立った。
スタートのスタンバイまでは、なるべく疲れないよう、ゆっくりを意識している。今回は「ギリギリまで服を着てカラダを冷やさないように」としようと思っていた。そこは意識してやった。でも、服を脱ぐタイミングを変えたせいで、水を飲む前に笛が鳴ってしまった。「あ、やばい」。水を飲んでからプールに入るというルーティンが崩れ、少し焦った。今振り返ってみると「落ち着いているつもりだったけれど、少し浮足立っていたのかもなあ」と思う。

スタートのリアクションはよかった。後日見せてもらった写真でもそれを確認することができた。僕は圧倒的に速いスタートを切っていた。練習してきたことはできたと思う。

レース中、左レーンを泳ぐ中国の選手は見えていた。右レーンのスペインの選手は見えなかった。25mから30m地点で、中国の選手よりもカラダ半分くらい先行しているのがわかった。
そのままターン。着順・タイムのパネルは見えない。
「自分は前にいる。中国の選手より前に出ているから大丈夫」と自分を奮い立たせ、最後のスパートをかけた。ゴールして横を見たら、スペインの選手が先にゴールしていた。モニターを確認すると2着の表示。1分7秒3……。遅い。ベストの5秒は出なくても、6秒よりは速いと思っていた。マンチェスターで敗れたあの日から、ここにあわせて、1年間やってきたのに。調子も悪くなかったのに。7秒という数字はけっこう衝撃だった。ただ悔しくて右こぶしをタッチパネルをバンバンと叩きつけた。

レースが終わって控室に行くまでに、多くの人が僕に祝福の言葉をかけてくれた。「メダルおめでとう」「よくやった!」との声を聞いて、ゴール直後の悔しい気持ちが少しだけやわらぎ、「ほっとした」という感情がわいてきた。
表彰式に登場した僕は、「すがすがしい表情」だったそうだ。会場に駆けつけてくれた仲間がそう言っていた。「東京から3年。世界で5番だったあの日から、ようやくメダルにたどり着いた」と思うことができた。自分でつかんだメダル。メダルをかけてもらった時、会場全体が祝福してくれた。いろいろな人の想いがつまっているメダルは「こんなに重いんだ」と思った。会場を一周。あちらこちらに日の丸が見えた。

レース翌日、パリまで応援に来てくれた会社のみなさんや母たちが、僕に会いに来てくれた。僕を支えてくださっているみなさんには、感謝の気持ちでいっぱいだ。競技を続けられたのも、ここまでくることができたのも、会社のみなさんのサポートがあったからだ。
母にも感謝の気持ちを伝えたかった。でも、言葉にするにはちょっと照れくさかったので、これまでの感謝を込めて、母の首に銀メダルをかけてあげた。母は少しびっくりした顔をしていた。
こうして、僕のパリは幕を閉じた。そして帰国後、さまざまなイベントが僕を待っていた。その話は次回!

お母さん談

レース翌日、幸太が私にメダルをかけてくれました。メダルは想像以上にズッシリと重く、そんな行動をとった幸太に驚き、泣きそうになりました。
初めてのパラリンピックの東京は5位入賞、それでもすごいと思っていたのにパリで銀メダル。成長を感じるとともによく頑張ったと思います。結果は、2位で悔しいと思いますが新たに目標ができたと思って、ますます頑張ってほしいと思います。

広報・高木さん談

応援団一同、これまで出したことがないくらいの大きな声で声援を送りました。大変なプレッシャーのなかでつかんだ銀メダル!おめでとう!

青空を背景に銀メダルを掴んだ写真
窪田幸太 公式インスタグラム窪田幸太 公式インスタグラム