2023/5/23
2023/5/23
経理部門はITが普及していなかった時代から存在している部門です。ITが普及した今でも、当時の古い慣習が残っているケースも少なくありません。近年話題になった、ハンコのあり方は象徴的な例の一つかもしれませんが、これ以外にも経理部門には業務を改善できる余地が多く残っています。
一方で、改善したいと思っていても実行には大きなハードルが立ちはだかります。どうすればスムーズに改善できるのでしょうか。まずは、経理業務の変化と現状の課題について解説していきます。
これまでの経理は、お金の管理や必要な手続きを行なうといった業務がメインで、そのなかで重要なものは決算や税務申告業務などでした。しかし近年、こうした従来の業務以外にも、経理の通常業務から得られた売上げ情報などのデータ分析や、リスク管理といった新たな業務への対応が求められるようになっています。
たとえば、「ヘッドライト経営」という言葉は、経理の変化を象徴する言葉の一つといえます。これは過去の数字を車の「バックミラー」「テールランプ」に例えるのに対して、前方を照らす「ヘッドライト」、つまりこれからの経営環境などの将来を予測し中長期的な視点で経営することを指しています。
最近でも感染拡大をはじめ資材価格の高騰、サプライチェーンの崩壊など、先の見通しがつかず予測不可能だとして、VUCAが話題になりました。だからこそ、過去の経験や実績に頼るのではなく、リスク管理の面からも市場環境の変動を考慮し、予測シナリオとの差異が発生した場合には経営計画に即座に反映させるなど、経営にも柔軟性が求められています。
これまで、経理部門は過去の経営数値のとりまとめを主な業務としていましたが、ビジネス環境の変化に伴い、予算管理や決算だけでなく、会社の数値を扱う専門家として将来の経営数値について考えることが当たり前になりつつあるのです。
とはいえ、すぐにヘッドライト経営を推進するのは現実的ではありません。将来予測がこれからの経営に必要だとしても、出納や決算、税務申告などの業務が不要になるわけではないからです。経理部門には月次決算などルーティン化している業務も多く、また属人化を防ぐ、ナレッジマネジメントシステムやアウトソーシングサービスも普及し始めていることから、効率化から稼働再配分まで、まだまだ変革の余地が残されていると言ってよいでしょう。
しかし、経理の現場を見てみると、改善・効率化の余地があるにも関わらず、対応できていない企業も少なくありません。その理由の一つは、組織として経理業務をタスクごとに分けて、それぞれ専任者が取り組んでいる実態が挙げられます。
各業務に専門性や期限内に完了することが求められる業務特性、また、取り扱うデータの種類や量も多く、タスクごとに専任者を設けることは一見効率的に思えます。しかし、こうした場合、各タスクを遂行するのに必要な業務量を考え、それに見合った要員数を割り当てているので、それぞれのタスクの遂行で稼働が精一杯となってしまいがちです。そうなると、どうしても改善や新規施策などの別の業務に取り組める人がいなくなってしまう傾向にあります。
前述のように、経理部門には日常のルーティンワークといったタスク業務の遂行で精一杯になり、業務改善や新規施策に取り組むことができないという課題があります。ここでは、それを解決する方法の一つとして、「3ピラーモデル」の活用を紹介します。
「3ピラーモデル」とは、HRT研究の第一人者であるミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ氏が人事組織のあり方として提唱したモデルのことです。同モデルでは、人事組織を下記の3つの役割に分けることを提唱しています。
BP(Business Partner)
戦略的なビジネス変革を推進し、今後の戦略や方針などを決める部門
CoE(Center of Excellence)
法や制度など、専門性が高い業務を担当する専門家集団の役割を担う部門
OPE(Operational Excellence)
伝票入力など日常的な定型作業を担う部門
このような3つのカテゴリーに業務と人材を分散させる方法は、すでに多くのグローバル企業で採用され、効率化・対付加価値化を実現しています。
この3ピラーモデルを経理業務に置き換えると、下記のようになります。従来の定型的な経理業務はOPEが担い、そのデータの蓄積をもとにBPが事業計画などを提案し、CoEは会計制度、内部統制でのチェックを行う、といった流れで業務を進めることができます。経理部門をこうした組織に転換していくことで、古いやり方の業務改善や、スピード感のある新規施策に対応しやすくなります。
ビジネス、ひいては経理業務のスタンダードが変化していくなか、変化への対応を怠れば、経営に大きなダメージや支障を与えかねません。組織を改革するためには、十分なリソースが不可欠です。しかし、改革のためにリソースを割き、日常業務に影響が出てしまえば本末転倒ともいえます。
こうした場合には、外部の専門家に協力を仰ぐのも一つの方法でしょう。たとえば、NTTファイナンスの経理業務コンサルティングであれば、豊富な実務経験とノウハウを有するコンサルタントが、外部の立場から客観的に経理組織の変革を支援することができます。
一般的に、経理業務は変革の余地が大きい部門とされています。しかし、リソース不足などで、根本的な業務の変革まで手が回らないケースも多いのが現状です。組織変革は難しくても、業務の見える化や効率化、コスト削減といった改善は多くの企業で実現できます。「経理業務を変革・改善したいが、自社のリソースが足りない……」という場合は専門家に相談してみても良いかもしれません。