新リース会計基準の大改正とは?企業への影響と5つの対応ポイントを徹底解説
リース会計基準とは、企業がリース取引を財務諸表にどのように記録・報告するかを定めたルールで、2027年4月から大きく変わります。
そこでこの記事では、リース会計基準の変更点や企業への影響、具体的な対応戦略について詳しく解説します。リース取引を行う企業の経理担当者や経営者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
なお、2027年の前に「令和7年度税制改正大綱」といった税制に関する改正方針が発表され、経理業務に大きな影響を与える可能性があります。所得税・住民税の改正から防衛特別法人税の新設まで、その範囲はかなり大きなものです。
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目次[非表示]
そもそも「リース会計基準」とは?
リース会計基準とは、企業がリース取引を財務諸表にどのように記録・報告するかを定めたルールです。リース取引は、企業が特定の資産(建物、機械、車両など)を一定期間借り、その対価としてリース料を支払う契約を指します。
現行のリース会計基準の分類は、「ファイナンスリース取引」と「オペレーティング・リース取引」の2種類で、詳細は下記のとおりです。
ファイナンス・リース取引 |
|
オペレーティング・リース取引 |
|
このように、リース会計基準は企業の財務状況を適切に表示するための重要な会計ルールとして機能しています。
新リース会計基準改正の3つの背景
新リース会計基準への改正には、明確な背景があります。ここでは、その主な3つの背景について解説します。
1. 国際会計基準(IFRS)との整合性確保
2. 企業の財務状況をより正確に反映する必要性
3. 投資家への透明性向上のための開示拡充
背景1. 国際会計基準(IFRS)との整合性確保
新リース会計基準への改正の最も大きな背景の一つは、国際会計基準(IFRS)との整合性確保です。
国際会計基準審議会(IASB)は2016年1月にIFRS第16号「リース」を公表し、すべてのリースを原則としてオンバランス処理することを求めています。
日本の会計基準も国際的な資本市場での比較可能性を高めるため、IFRS第16号に近い形での改正が求められていました。グローバル化が進む現代では、企業の財務情報が国境を越えて比較されることが一般的です。
そのため、日本企業の財務諸表が国際的な投資家にも理解しやすい形で作成されることは非常に重要となっています。この背景から、新リース会計基準はIFRS第16号の内容を基礎としながらも、日本の実情を考慮した形で策定されました。
【改正の背景】「日本独自の会計処理」から「国際水準との一体化」へ |
背景2. 企業の財務状況をより正確に反映する必要性
現行のリース会計基準では、オペレーティング・リース取引はオフバランス処理されるため、企業が「実質的に保有・使用している資産や将来の支払義務が財務諸表に反映されない」という課題がありました。
特に航空会社や小売業など多額のリース取引を行う業種では、オフバランスの取引が多額になり、企業の実際の財務状況が財務諸表に正確に反映されないケースが指摘されていました。
新リース会計基準では、リース取引を原則としてすべてオンバランス処理することで、企業が使用権を持つ資産と将来の支払義務をより適切に財務諸表に反映させます。
これにより、企業の実質的な資産規模や負債状況が明確になり、財務分析の精度向上につながると期待されています。
【改正の背景】「見えない負債」から「正確な財務の可視化」へ |
背景3. 投資家への透明性向上のための開示拡充
新リース会計基準への改正のもう一つの重要な背景は、投資家への情報開示の充実と透明性向上です。現行基準では、オペレーティング・リース取引については注記情報としての開示に留まり、財務諸表本体には反映されていませんでした。
新基準では、すべてのリース取引に関する情報が財務諸表本体に反映されるとともに、注記情報も拡充されます。
▼具体的な開示情報
|
投資家はこれらの情報をもとに、企業の将来のキャッシュフローや財務リスクをより正確に評価できるようになるでしょう。透明性の高い情報開示は、資本市場の効率性を高め、適切な資源配分を促進する効果があります。
【改正の背景】「限定的な情報開示」から「投資家目線の開示強化」へ |
新旧リース会計基準の4つの主要変更点
新リース会計基準では、従来の会計処理から大きく変更された点があります。
1. リース取引の区分廃止とオンバランス処理の原則化
2. リースの定義と識別方法の見直し
3. 使用権資産とリース負債の認識・測定方法
4. 財務報告における表示と開示の拡充
ここでは、その主要な4つの変更点について詳しくみていきましょう。
変更点1. リース取引の区分廃止とオンバランス処理の原則化
新リース会計基準における最も重要な変更点は、これまでのファイナンス・リースとオペレーティング・リースという区分が廃止され、原則としてすべてのリース取引をオンバランス処理することになった点です。
従来までの処理 |
オペレーティング・リース取引については貸借対照表に計上せず、賃借料として費用処理するのみ |
新基準 |
リース期間が12ヵ月以内の短期リースや少額資産のリースなど一部の例外を除き、借手はすべてのリース取引について使用権資産とリース負債を貸借対照表に計上する |
つまり、今まで「借りているだけ」だったものを「借りているけど、会社の持ち物と同じように扱う」というイメージです。
これまでオフバランスだったリース取引が表面化し、企業の総資産や負債の額が増加することになります。特に、店舗や事務所などの不動産リースを多く利用している小売業や、航空機のリースを実施している航空会社などは大きな影響を受けることが予想されます。
変更点2. リースの定義と識別方法の見直し
リースの定義と識別方法の見直しも、変更点の一つです。新基準におけるリースの定義は「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約」とされ、契約がリースに該当するかどうかの判断基準も明確化されました。
▼具体的なポイント 特定された資産の使用を支配する権利が移転しているかどうか |
「支配」とは、特定された資産の使用からの経済的便益のほとんどすべてを得る権利と、資産の使用を指図する権利の両方を指します。
この判断基準により、これまでリースとして扱われていなかった契約がリースと判定されたり、逆にリースとして扱われていた契約がサービス契約と判定されたりする可能性があります。
例として、データセンターの利用契約や、保守サービスが含まれる機器のリース契約などは、新基準のもとで再評価が必要になる可能性が高いです。
変更点3. 使用権資産とリース負債の認識・測定方法
新リース会計基準においては、借手はリース開始日に使用権資産とリース負債を認識し測定することが必要です。リース負債は、リース料総額の現在価値として測定され、割引率には借手の追加借入利子率などが用いられます。
例えば、年間80万円(後払い・付随費用なし)のリース料を3年間にわたって支払う契約を結んだ場合、割引率を4%とすると、リース負債は下記のように算定されます。
1年目:800,000÷(1 + 0.04)^1 =769,231円 |
リース負債の当初測定額に、前払リース料や当初直接コスト、原資産の原状回復費用などを加算した金額で測定されるのが使用権資産です。そのうえで、リース期間にわたって減価償却されることになります。
実務では、下記のような仕訳が発生します。
【リース開始時の仕訳例】
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
使用権資産 |
2,220,076円 |
リース負債 |
2,220,076円 |
※割引率4%、年間リース料80万円を3年間支払う契約の現在価値(付随費用なし)を想定
【月次支払い時の仕訳例】
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
リース負債 |
59,266円 |
現金預金 |
66,667円 |
支払利息 |
7,401円 |
− |
− |
毎月支払うリース料は、利息相当額と元本返済に分けて記録し、支払利息は残っているリース債務に割引率をかけて算出します。
【使用権資産の減価償却時の仕訳例】
借方 |
金額 |
貸方 |
金額 |
減価償却費 |
740,025円 |
使用権資産 |
740,025円 |
所有権が移転するリースは、資産を自社保有していると仮定して通常の償却方法で処理します。それ以外のリースは、定額法などから自社に合った方法を選択可能です。
この測定方法は従来の「ファイナンス・リース」の会計処理に似ていますが、適用範囲が大幅に拡大されている点が大きな違いです。
測定に際しては、リース期間や割引率の決定、変動リース料の取扱いなど判断を要する要素が多く含まれており、実務上の負担が増加することが予想されます。
変更点4. 財務報告における表示と開示の拡充
財務諸表本体での表示に加えて、注記における開示要求も大幅に拡充されているのが新リース会計基準の4つ目の変更点です。
各財務諸表での主な表示内容は、下記のとおりです。
貸借対照表 |
使用権資産を原資産に応じて表示、または区分表示 |
損益計算書 |
使用権資産の減価償却費とリース負債に係る利息費用を区分表示 |
キャッシュフロー計算書 |
|
次に、「注記」で求められる詳細な情報開示の例を下記にまとめました。
|
注記情報の具体的な内容も多岐にわたるため、実務上は開示項目の網羅性と正確性がより重要となります。
新リース会計基準改正による企業への3つの影響
新リース会計基準の導入で考えられる企業への主な影響は、下記のとおりです。
1. 経理処理負担が増加する
2. 自己資本比率が下がる
3. 税法への対応が求められる
企業の財務諸表や業務プロセスに、大きな影響を与えることが考えられます。
影響1. 経理処理負担が増加する
新リース会計基準の導入により、これまでオペレーティング・リースとして単純に賃借料として処理していた取引が「使用権資産」と「リース負債」として計上されることになります。これにともない、企業の経理部門では新たな会計処理の負担が生じます。
想定される業務負担は、下記のとおりです。
|
特に、多数のリース契約を持つ企業では、これらの処理を効率的に行うための「システム構築」や「人員の確保」が課題です。
また、リース契約の条件変更があった場合には、使用権資産とリース負債の再測定が必要になるなど、継続的な管理コストも発生します。
これらを踏まえ、リース会計基準への対応はもちろん、経理そのものの効率化も重要になるなか、自社だけで対応するのは容易ではありません。そこでおすすめしたいのが、専門的な知見を持つ外部サービスの活用です。
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影響2. 自己資本比率が下がる
新リース会計基準が導入されると、企業の総資産と総負債が同時に増加します。これまでオフバランスだったオペレーティング・リース取引が貸借対照表に計上されることで、自己資本比率(純資産÷総資産)が低下する可能性があるからです。
自己資本比率は企業の財務健全性を示す重要な指標であり、銀行からの融資条件(財務制限条項)や社債の発行条件に影響を与える可能性も捨てきれません。
▼影響が大きくなる傾向がある業種 不動産や設備のリース取引が多い小売業・運輸業・ホテル業 など |
このような影響を軽減するためには、リース契約の見直しやリースからの買取りへの切り替えなど、財務戦略の再検討が必要です。
影響3. 税法への対応が求められる
新リース会計基準の導入にともない、会計上の処理と税務上の処理の差異が拡大する可能性があります。想定される「会計上の処理」と「税務上の処理」の主な違いと影響を、下記にまとめました。
項目 |
会計上の処理 |
税務上の処理 |
原価計上 |
使用権資産の減価償却費として計上 |
リース料全額を費用処理 |
費用項目 |
利息費用が発生(リース負債の返済に伴う) |
利息に分解せず、リース料として処理 |
影響 |
税効果会計に影響(繰延税金資産・負債の発生) |
会計と税務の差異により調整が必要 |
また、新基準の適用にともない、社内の税務管理システムや業務フローの見直しなどの対応も必要です。
【求められる見直しや対応】
|
このように、新リース会計基準への対応は、会計処理の見直しのほか、業務フロー全体や税務戦略にも大きな影響を与えかねません。
新リース会計基準適用への4つの対応戦略
新リース会計基準への適用に向けた効果的な対応戦略は、大きく次の4つです。
1. リース契約の全社的な棚卸と影響分析
2. 適用スケジュールの策定と進捗管理
3. 社内規程やマニュアルの整備
4. 会計システムの更新と業務フローの見直し
企業はどのように準備を進めるべきか、みていきましょう。
対応1. リース契約の全社的な棚卸と影響分析
新リース会計基準への対応の第一歩は、自社が保有するすべてのリース契約の棚卸と影響分析です。
まず、社内のすべての部門から契約情報を収集し、それぞれの契約が新基準におけるリースの定義に該当するかどうかを判断する必要があります。例えば、下記のような情報整理・精査が必要です。
|
また、各リース契約について使用権資産とリース負債の見積もり計算を行い、財務諸表への影響を定量的に分析することが重要です。
この分析結果をもとに、経営指標への影響や開示情報の変化を把握し、必要に応じてリース戦略の見直しを検討します。
対応2. 適用スケジュールの策定と進捗管理
新リース会計基準への移行は、一朝一夕に行えるものではありません。計画的な準備を進めるためには、詳細な適用スケジュールの策定と進捗管理が不可欠です。
▼一般的な適用プロジェクトの段階
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各段階での具体的なタスクとマイルストーンを設定し、責任者と期限を明確にしたプロジェクト計画を策定しましょう。また、定期的な進捗会議を開催し、課題の早期発見と解決に努めることが重要です。
特に、システム対応や社内規程の整備には時間を要するため、早期に着手するのがおすすめです。
対応3. 社内規程やマニュアルの整備
新リース会計基準の適用にあたっては、社内規程やマニュアルの整備も重要な対応策です。例えば、下記のような明確な社内ルールを設けます。
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特に、リース期間の決定や割引率の設定などの「見積もりや判断をともなう項目」については、一貫性のある対応を確保するためのガイドラインを作成しましょう。
また、関係部門向けに「新基準の概要・影響・対応手順を説明するマニュアル」も整備することが望ましいです。社内規程やマニュアルの整備は、会計処理の品質を確保するだけでなく、監査への対応や内部統制の強化にもつながります。
なお、最近はAIを活用して経理業務の効率化を図ることも可能になっており、しっかりとマニュアルを整備すれば有効的な活用が可能です。社内規定の壁打ちなどにも活用できます。
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対応4. 会計システムの更新と業務フローの見直し
新リース会計基準に対応するためには、会計システムの更新や業務フローの見直しが不可欠です。
例えば、既存の会計システムで行うには難しいと考えられる「新基準が要求する一連の処理」は、下記のとおりです。
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加えて、専用のリース管理システムの導入や、既存システムのカスタマイズを検討する必要があります。
特に、多数のリース契約を持つ企業では手作業での管理は現実的ではなく、システム化による業務効率化が重要です。
これと同時に、リース契約の締結から会計処理、開示までの業務フローを見直し、部門間の連携体制を構築することも大切です。契約管理部門、経理部門、IT部門など関連部署が協力して、効率的な業務プロセスを確立することが求められます。
新リース会計基準について把握して、早めの対応を心がけよう
【本記事のまとめ】
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新リース会計基準は、オンバランス処理の原則化など大きな変更をもたらします。
企業には経理処理負担の増加や自己資本比率の低下といった影響が予想されるため、リース契約の棚卸や影響分析、社内規程の整備、システム更新など計画的な準備を進めていきましょう。
とはいえ、新リース会計基準が経理業務へ及ぼす影響は大きく、自社だけで対応するのは難しいこともあるかもしれません。そのような場合は、「経理コンサルティング」に相談するのも一つの手段です。
例えば、NTTファイナンスでは、NTTグループ900社を超える実務ノウハウを活かしたコンサルティングを実施いたします。
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