請求書の電子化には法律の理解が必須!電子帳簿保存法の改正ポイントや対策を紹介
2022年に電子帳簿保存法が改正されました。請求書を電子データで保存する際は、適切な形で保存しないと罰則を科されてしまいます。
そこで本記事では、
- 電子帳簿保存法の概要
電子帳簿保存法の改正ポイント
電子取引の保存要件を満たすために実施すべき4つの対策
などを紹介します。
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請求書の電子化は法律上問題ない?
請求書の電子化は、法律上も問題ありません。
以前は紙でのやり取りが原則とされていましたが、要件を満たしさえすれば請求書の電子取引は可能です。
例えば、「PDF化した請求書をメール添付する」「Wordで作成した請求書をチャットで送付する」などが挙げられます。
ただし、事業者が請求書を電子取引するためには、一定の要件を満たさなければなりません。
その要件がまとめられているのが「電子帳簿保存法」です。
電子帳簿保存法とは
電子帳簿保存法とは、簡単にいうと「所得税法や法人税法に関わる帳簿や書類に関して、紙ではなく電子データでの保存も認める法律」です。
以下の3つのルールを設定することで、電子データでの保存を認めています。
1.国税関係帳簿書類の電子保存制度
国税関係帳簿書類の電子保存制度は、「システムや会計ソフトなどで作成した帳簿類のデータ保存を認めるもの」です。
1998年度の税制改正で本制度が創設される以前は、帳簿類の電子保存は認められていませんでした。
それが電子帳簿保存法のおかげで、一定の要件を満たすことにより、電子的に作成した帳簿類の電子データでの保存も許可されています。
2.スキャナ保存制度
スキャナ保存制度は、「紙で受け取った請求書や領収書などを画像データで保存できるもの」です。
2005年度の税制改正で本制度が創設される以前は、紙で受け取った請求書や領収書は基本的に「紙のまま」7年間保存する必要がありました。
それが電子帳簿保存法のおかげで、一定の条件を満たすことにより、「スキャナしたデータ」での保存も認められています。
3.電子取引データの電子保存制度
電子取引データの電子保存制度は、インターネットを介して取引しているのであれば、作成側・受領側ともに電子データでの保存を必須とする制度です。
電子取引とは、取引情報(注文書、契約書、送り状、領収書、見積書など)のやり取りをインターネットでおこなう取引を指します。
電子帳簿保存法の改正に伴い、2024年1月以降、電子取引した際は電子データでの保存が義務化されました。
電子帳簿保存法における書類などの保存方法のルール
電子帳簿保存法で保存方法が定められているのは、「国税関係帳簿」「国税関係書類」「電子取引情報」の3つです。
次の表に、それぞれの具体例と保存方法をまとめました。
種類 |
例 |
紙で保存 |
電子データで保存 |
国税関係帳簿 |
・仕訳帳 ・勘定元帳 ・現金出納帳 ・固定資産台帳 |
◯ |
◯ |
国税関係書類 |
・請求書 ・契約書 ・領収書 ・損益計算書 |
◯ |
◯ |
電子取引情報 |
・Web請求書 ・メールデータ ・EDI取引 ・クラウド取引 |
× ※2022年1月の電子帳簿保存法の改正により、紙での保存はNGに。 |
◯ |
簡単にいうと、国税関係帳簿と国税関係書類に関しては、紙で保存するか電子データで保存するかの判断が各事業者に委ねられています。
一方で、電子取引情報に関しては、電帳法の改正により電子データでの保存が必須となりました。
【2022年以降】電子帳簿保存法の改正で変わった2つのポイント
ここで、2022年の電子帳簿保存法の改正ポイントを2つ紹介します。
前述した内容と重複する箇所もあるため、気になるものだけチェックしてみてください。
なお、今回の法改正により全事業者に求められる対策は「電子取引の保存要件を満たすための4つの対策」で紹介しています。
ポイント1.電子データで受け取った取引情報の書面保存の廃止
2022年の法改正以前は、電子データで受け取った取引情報を紙で印刷して保存することも認められていました。
電子取引情報の例は、下記のとおりです。
【電子取引情報の例】
|
しかし2024年1月以降は、次の表のように電子データで受け取った取引情報を紙で保存することが禁止され、電子データでの保存が必須となりました。
例 |
紙で保存 |
電子データで保存 |
|
2023年12月末まで |
・Web請求書 ・Web領収書 ・メールデータ ・EDI取引 ・クラウド取引 |
◯ |
◯ |
2024年1月以降 |
× |
◯ |
ポイント2.国税関係帳簿・書類の要件緩和
2つ目の改正ポイントは、要件緩和により国税関係帳簿・書類の電子データ保存、スキャナ保存がやりやすくなることです。
改正電子帳簿保存法での大きな変更点は、下記の5つです。
1.事前承認制度が廃止になり、事業者の負担が軽減
改正前 |
改正後 |
|
電子データ保存する際の税務署長への事前承認 |
必要 |
不要 |
改正前は、国税関係帳簿・書類を電子データ保存するためには、あらかじめ必要書類を揃えて税務署に提出し、承認を受ける必要がありました。
改正後は、税務署長の事前承認制度が廃止になったため、事業者の負担が軽減されます。
2.検索要件の緩和
改正前 |
改正後 |
|
電子データ保存する際の検索項目 |
取引年月日、取引金額、勘定科目、その他国税関係帳簿の種類に応じて主要な記録項目 |
取引年月日、取引金額、取引先 |
国税関係帳簿・書類を電子データ保存する際は、法律で定められた検索要件(※)を満たす必要があります。
※個人事業主の場合は2年前、法人の場合は前々年度の売上が1,000万円以下であれば検索機能の確保は免除される
2022年の法改正により、この検索要件が大幅に緩和されました。今後、事業者に求められる検索要件は次の3つです。
▼要件1
取引年月日、取引金額、取引先の3項目で検索ができること
例)20221031_(株)国税商事_110000.pdf
|
▼要件2
取引年月日、取引金額は範囲を指定して検索ができること
例)取引年月日の範囲指定:1/1~1/10
取引金額の範囲指定:10,000円~20,000円 |
▼要件3
2つ以上の任意の記録項目を組み合わせて検索条件を設定できること
※AND検索で良く、OR検索までは求められない 例)組み合わせ検索
日付:1/1 金額:10,000円 |
なお、国税庁などが電子データのダウンロードを求めた際に対応できる状態にしてある場合、要件2と3への対応は不要です。
3.タイムスタンプ要件の緩和
改正前 |
改正後 |
|
スキャナ保存する際の タイムスタンプの付与期限 |
3営業日以内(※) |
最長2ヵ月と おおむね7営業日以内 |
※書類を受け取った人がそのままスキャンする場合
タイムスタンプとは、「電子データが存在していたこと」や「その時刻以降に改ざんがおこなわれていないこと」を第三者によって証明するものです。
今回の法改正前は、スキャナ保存にともなうタイムスタンプの付与期限は「最短3営業日以内」でした。
法改正後は「最長2ヵ月とおおむね7営業日以内」へと大幅に延長されています。
なお、スキャナ保存同様、電子取引に関してもタイムスタンプの付与期限が最長約2ヵ月に緩和されました。
4.適正事務処理要件の廃止
改正前 |
改正後 |
|
スキャナ保存する際の
適正事務処理要件
|
必要 |
不要 |
法改正以前、国税関係書類をスキャナ保存するには、
- 社内規定の整備
定期的な検査
事務処理担当者の複数名確保
など、細かな要件を満たす必要がありました。
法改正後はこれらの「適正事務処理要件」が廃止となるため、スキャン後すぐの原本破棄が可能です。
また、事務処理担当者は1名で良くなるため、本来注力すべき業務に多くの人員をさけるようになります。
5.罰則規定の強化
改正前 |
改正後 |
|
電帳法に違反したときの 罰則規定 |
ー |
・追徴課税 ・青色申告の 取り消しのリスク |
ここまでお伝えしてきた4つは、いずれも国税関係帳簿・書類の要件緩和に関する内容でした。
各要件が緩和される一方で、不正があった場合の罰則規定は強化されます。
具体的には、電帳法に則った適切な保管がなされていない場合、青色申告の取り消しのリスクがあります。
また、データ改ざんなどの不正に対しては、重加算税10%が課されることとなりました。
重加算税とは、仮想・隠ぺい行為をした会社への罰金で、通常35%のところがデジタルデータの改ざんだと45%になります。
※今回の法改正では、優良な電子帳簿と認められた場合に、過少申告加算税が5%軽減される措置も整備されました。
電子取引の保存要件を満たすために実施すべき4つの対策
今回の法改正で特に注目されているのは、電子取引の保存要件についてです。なぜなら、すべての事業者に電子取引の保存要件を満たすことが求められているからです。
事業者が実施すべき具体的な対策は、下記の4つです。
今後は、税務調査においても紙ではなくデータで開示することになります。それでは、詳しく見ていきましょう。
対策1.関係書類の備え付け
関係書類の備え付けとは、簡単にいうと「使い方がわかる書類を保管しておきましょう」ということです。
具体的には、システム概要書やシステム基本設計書など、システムの概要を記載した書類の備え付けが求められます。
なお、画面や書面に速やかに出力できるのであれば、オンラインのヘルプ機能やマニュアルで代えても良いとされています。
対策2.見読性の確保
見読性の確保とは、簡単にいうと「データ確認のために必要な装置を備え付けておきましょう」ということです。
具体的には、保存しているデータを速やかに出力できるよう、PCやディスプレイ・プリンタなどを備え付ける必要があります。
なお、ディスプレイやプリンタに関して、性能や台数などは要件に含まれていません。
対策3.検索機能の確保
検索機能の確保とは、簡単にいうと「ルール通り検索できる状態にしておきましょう」ということです。
ルールとは、具体的に下記3つの検索要件を指します。
検索要件1 |
取引年月日、取引金額、取引先の3項目で検索ができること |
検索要件2 |
取引年月日、取引金額は範囲を指定して検索ができること |
検索要件3 |
2つ以上の任意の記録項目を組み合わせて検索条件を設定できること |
ただし、個人事業主の場合は2年前、法人の場合は前々年度の売上が1,000万円以下であれば、検索機能の確保は免除されます。
上記の条件に当てはまる事業者は、とりあえずデータで保存しておけば問題ありません。
一方で、上記の条件に当てはまらない事業者は、以下3つの方法のうちいずれかを選択して対策することになります。
1.規則的なファイル名をつける
ファイル名に「取引年月日」「取引金額」「取引先」を入れ、検索機能を確保する方法です。
税務職員からの求めがあった場合には、電子データを一括ダウンロードできる状態にしておく必要があります。
以下に、規則的なファイル名をつける方法の例を紹介しますので、参考にしてください。
例)2022年10月31日に(株)国税商事から受領した110,000円の請求書のPDFの場合
→20221031_(株)国税商事_110000.pdf
|
なお、取引年月日は、西暦・和暦のどちらを使用しても構いません。
2.Excelなどで索引簿を作成して検索に対応する
Excelなどの表計算ソフトに「取引年月日」「取引金額」「取引先」「書類の種類」などを記載し、ファイルの連番と紐づける方法です。
Excelのフィルター機能にて、検索できるようにしておく必要があります。
以下に、国税庁から出ている索引簿の作成例を紹介しますので、参考にしてください。
出典:索引簿の作成例|国税庁
3.検索要件に対応したシステムを利用する
3つ目は、検索要件に対応したシステムを利用する方法です。今では、改正後の電子帳簿保存法に対応したシステムも多く見られるようになりました。
要件を満たしたシステムには、JIIMA(公益社団法人日本?書情報マネジメント協会)の認証マークが付いています。
現在システムを利用している方、もしくは今後システムの利用を検討している方は、対象のシステムにJIIMAの認証マークが付いているか確認してみてください。
出典:電子書類ソフト法的要件認証制度 | JIIMA 公式サイト
対策4.保存上の措置
保存上の措置とは、簡単にいうと「電子データの削除、改ざんなどをしないことをルールとして備え付けておきましょう」ということです。
具体的には、以下4つのうちいずれかの対策を講じる必要があります。
タイムスタンプとは、「電子データが存在していたこと」や「その時刻以降に改ざんがおこなわれていないこと」を第三者によって証明するものです。
タイムスタンプを使用しない場合、上記3・4の対策を講じることになります。
1.タイムスタンプが付与された書類の受領
取引先から、タイムスタンプが付与された書類を受け取ることです。
取引先がタイムスタンプを付与した時点で、電子データが存在していた証拠が残り、改ざんできない状態になっています。
2.タイムスタンプの付与
電子取引データの受領後、自社でタイムスタンプを付与する方法です。
スキャナ保存同様、「最長2ヵ月とおおむね7営業日以内」にタイムスタンプを付与する必要があります。
また、タイムスタンプを付与できるツールの購入が必要です。
3.訂正削除の記録が残る/訂正削除ができないシステムの利用
3つ目は、「データの訂正や削除をおこなった場合に記録が残るシステム」もしくは、「データを訂正・削除できないシステム」を利用する方法です。
これまでに上記のシステムを利用したことがない場合、新たにシステムを導入する必要があります。
4.訂正削除の防止に関わる事務処理規程の備え付け
4つ目は、訂正や削除の防止に関わる「事務処理規程」を備え付ける方法です。
簡単にいうと、社内でどのようなルールのもとに運用していくか、規程を作ることになります。
タイムスタンプや専用システムの使用を想定していない方は、こちらの方法がおすすめです。
なお、事務処理規程に関しては国税庁からサンプルが公開されていますので、自社で作成する際の参考にしてください。
請求書の電子化でよくある2つのQ&A
請求書の電子化でよくある質問と、その回答をまとめました。
気になるものだけ、チェックしてみてください。
Q1.改正電子帳簿保存法はいつから?
改正電子帳簿保存法は、2022年1月に施行されました。
下記のとおり、2024年1月以降、電子データで受け取った取引情報は電子データでの保存が原則です。
例 |
紙で保存 |
電子データで保存 |
|
2023年12月末まで |
・Web請求書 ・Web領収書 ・メールデータ ・EDI取引 ・クラウド取引 |
◯ |
◯ |
2024年1月以降 |
× |
◯ |
本法律は規模や業種に関わらず全事業者が適用となるため、各事業者には法律に則った適切な対策が求められます。
Q2.請求書を電子化するメリットは?
請求書を電子化するメリットは、以下の5つです。
|
請求書の電子化はコスト削減や業務効率化につながり、テレワークの推進にも効果的です。
なお、請求書を電子化するメリット・デメリットは以下の記事で解説していますので、詳しく知りたい方はご参照ください。
法律を正しく理解して請求書の電子化を進めよう
本記事のまとめ
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請求書を含む電子データで受け取った取引情報は、電子データでの保存が必須になりました。
改正電子帳簿保存法に則った対応を取り、請求書の電子化を進めましょう。