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PROJECT STORY #02

国境も、商習慣も、超えていけ。

グループ向け海外ファクタリングプロジェクト

ASEAN諸国のほぼ中心に位置するシンガポール。法人税制をはじめとするビジネスへのさまざまな優遇措置が注目され、アジア展開を狙う企業の進出ラッシュが続いている。もちろん、NTTグループも例外ではない。シンガポールを足場に事業拡大に挑むグループ企業を、NTTファイナンスはどう支えていくのか。これまでにないサービスを提供するためのプロジェクトが始まった。

SATOMI KASHIO

グローバル事業部 海外NTTグループ営業部門
経済学部 経済学科 卒
2009年4月:
入社。首都圏営業部配属。首都圏の民間企業向け新規開拓の営業を行う。
2010年4月:
法人営業二部へ異動。官公庁向け案件獲得のためのリース営業を行う。
2012年4月:
国際営業部へ異動。ヨーロッパエリアのグループ会社向け案件や電力案件に取り組む。
2013年7月:
海外トレーニーとしてアメリカへ。ウェブホスティング会社で財務担当として従事。
2014年7月:
帰国。グローバル事業部海外NTTグループ営業部門へ配属となり、アジアのお客様へファイナンスの営業を行う。

「払ってくれないなら、
待つしかないよ」。

企業同士の取引は「後払い」が基本だ。たとえば、モノを売ったA社と、買ったB社。A社が商品を納めると、B社はあらかじめ決められた期日を待って入金を行う。それまでの間、A社にはお金が届かない。つまり、仕入れなどの企業活動に回すことができない。

これを解決するのが「ファクタリング」というサービスだ。A社には、B社にお金を請求できる権利=債権がある。この債権をNTTファイナンスが買い取り、B社にかわって、すばやくA社に入金する。その後、債権にもとづいてお金をB社から回収。つまり、NTTファイナンスが間に入り、一時的に支払いを肩がわりすることで、納品と入金のタイムラグを小さくするしくみ。

このファクタリングを導入したい、という相談が、NTTグループのとある企業から舞い込んだ。もともとシンガポールの現地企業だったが、数年前に買収され、グループの一員となったところだ。シンガポールの商習慣は、日本のそれと大きく違う。特に「きっちり期日までに支払う」という意識があまりない。請求側も「払ってくれないなら待つしかないよ」とのんびりしている。

依頼してきたグループ企業も、そんな商習慣からなかなか抜け出せずにいた。納品と入金が噛み合わなければ、財務状況が悪化しかねない。そこで、NTTファイナンスのシンガポール拠点に声がかかったのだ。だが、設立間もないシンガポール拠点に社員はたった一人。日本からの応援役として、白羽の矢が立ったのが柏尾だった。

ファクタリングの例

商習慣を動かせ。

国内では豊富なファクタリングの実績を持つNTTファイナンスだが、シンガポールでは初の試み。柏尾は現地の弁護士事務所と組み、現地派遣社員とスキームをつくりあげることから始めた。予想通りと言うべきか、商習慣の壁がつぎつぎに立ちはだかった。いちばん驚いたのが、「遅延利息」という考え方がないこと。支払いが遅れたら利息を払う。日本ではごく常識的なことだが、シンガポールではむしろ非常識。ペナルティがなければ、期日までに払う理由もない。柏尾は、遅延利息を契約に盛り込むようグループ企業を説得した。だが、取引先のネガティブな反応を恐れてか、なかなかうなずいてもらえない。

よくよく調べてみると、シンガポールの民法には遅延利息がきちんと定められていた。そこで柏尾は、民法に定められているよりも低いパーセンテージの遅延利息を契約に入れてはどうか、と提案した。法を盾に高い利息をとられるリスクに比べたら、契約で低い利率に決めてしまったほうがいい。取引先にそう思わせることができれば、抵抗感もなくなるはずだと読んだのだ。この狙いは当たった。柏尾の機転が、ほんの少しではあるが、シンガポールの商習慣を動かした。

100社を、たった1週間で。

スキームをどうにかつくりあげた後には、膨大な与信判断が待っていた。グループ企業の取引先100社あまりについて、どの債権を買い取ることができるかひとつひとつ判断しなければならない。もちろん、リスクの高い債権については買い取れないこともある。「この取引先、シンガポールではすごく有名なのに、どうしてダメなんだ」。グループ企業から、そんな不満をぶつけられることもあった。知名度と信用度は別もの。そこを納得してもらうのは骨が折れた。

納得させなければならない相手は、社内にもいた。海外案件は、慎重なチェックが必要とされる。社長もメンバーに加わっての審査会議を経なければ、実行に移せない。社外と社内。ふたつの大きなハードルに挟まれながら、柏尾は走りつづけた。実のところ、焦っていた。スキーム構築には、5か月近い時間がかかっている。これ以上、グループ企業を待たせるわけにはいかない。たった一週間。記録的なタイムで、柏尾は100社分の与信判断をゴールまでこぎつけた。

柏尾のある一日

9:00
フィリピンのホテルでメールチェック。アポイントに向けた資料作成。
10:00
クライアント(NTTグループ)を訪問。現状のヒアリング。
12:00
クライアントとランチ。
14:00
ミーティング。現地金融機関と情報交換。
16:00
本日2社目のクライアントと商談。
18:00
ホテルへ戻り、日本と電話会議を行なったあと、翌日のための資料作成。

始まりは、次の始まりへ。

記念すべき、シンガポールでの初めてのファクタリング。その初回実行額、8億円。インパクトは、金額以上だった。これが大きな足がかりとなって、香港、フィリピン、インドネシアといった国々でもファクタリングへの取り組みが始まったのだ。もちろん、その先頭を走るのは柏尾だ。

とはいえ、シンガポールでの事例をスライドさせればOK、というほど話は簡単ではない。国によって商習慣がまるで違うのはもちろん、シンガポールほどビジネス環境の整った国もない。つまり、すべてがゼロからの挑戦。それでも、柏尾は前を向いている。こうした経験のひとつひとつが、やがて自分の大きな力になることを期待しているからだ。

NTTファイナンスのグローバルビジネスには、航空機・船舶ファイナンスという大きな武器がある。またベンチャーキャピタルとしては、IT分野に絞った投資を行い、その成果をグループにうまくフィードバックしている。さらにもうひとつ、「リース」を軸にした、新しい強みを生み出したい。たとえば海外では、通信ケーブルを通す鉄塔は、その多くがリースによって運営されている。そこに、食い込むことはできないか。国から国へ。ビジネスからビジネスへ。飛び回るたびに、柏尾の中でふくらんでいく未来がある。